製造技術エンジニアの職種とは何をするのでしょうか?正直これを一言で言い表すことは非常に難しいです。
あえて言うのであれば「何でも屋」になることです。何でも屋といっても広く浅くという意味ではありません。また便利屋という意味でもありません。
いうなれば何を聞いてもなにがしかの技術的な答えを出してくれる人です。
製造業においては製造技術が自分たちの製品の強みとなり足腰になります。
その足腰を担う製造技術エンジニアは、常に知らないことのない、なんでも知ってる技術者をめざさなくてはなりません。
という意味で、『何でも屋』なんです。
技術的なことに関する知恵袋的な存在とでもいいましょうか?そういう存在にならなければ製造技術エンジニアとしては、存在価値がないともいえます。
業種によってさまざまとは思いますが、製造技術エンジニアとしての代表的な具体的仕事内容を9項目ピックアップしてみました。
- 製造方法の技術開発と決定
- 設備の導入と条件出し
- サンプル作成・評価
- 量産移管
- 品質改善と歩留まりアップ
- 変動費、固定費コスト削減
- 海外工場立ち上げ
- クレーム処理
- 特許出願
電子部品業界で製造技術畑32年の私が、製造技術エンジニアがカバーするべきこれらの仕事内容9選について具体的な説明をしてみたいと思います。
また、これから製造技術エンジニアをめざす方に向けて、ポイントや注意点について徹底解説してみたいと思います。
製造技術エンジニアの仕事内容9選
1.製造方法の技術開発と決定
まず設計部門で開発された製品について製品情報を入手することから始まります。
製品情報はまずは設計部門が開催するデザインレビューにて情報を得るのが一般的です。
また下記に示す製品情報は製造方法を検討するうえでの必須事項となります。
- 要求仕様(材料、寸法、電気的特性、機械特性、信頼性、外観)
- 要求数量
- 要求納期
- コスト試算結果と予算
- ユーザー情報(業界、企業規模、所在地、用途)
製品情報が入手できた後は、製造技術エンジニアは、必要に応じて手作りサンプルを作ったり、実験を行ったり、要素技術を組み合わせたりして、製造方法の技術開発を行います。
そしてその製造法を駆使して、最大限の効率の製造フローを策定して、製造技術エンジニアは製造方法を決定し、関係者へ周知させる役割があります。
2.設備の導入と条件出し
工程フローと製造方法が決まれば次は設備の選定が必要です。
設備の選定は一例として下記のステップで行います。
- 設備購入予算の確保
- 設備業者との仕様打ち合わせ・仕様決定と見積もり依頼
- 相見積もりのうえ業者決定し発注
- 工場への搬入と立ち上げ
- 製造条件だし
- オペトレ、点検・保全方法の確認と教育
- 基礎評価・初期評価・流動評価
3.サンプル作成・評価
決定した製造方法・製造条件を用いて、生産した製品の良否を判断するためには、サンプルを作製し評価することが必要です。
サンプルを作る際にはサンプルのステイタスを明確にして作製する必要があります。
サンプルのステイタスには以下のようなものがあります。
- DS:デザインサンプル
- ES:エンジニアリングサンプル
- CS:コマーシャルサンプル
- PP:プリプロサンプル
CSやPPはユーザーへ出荷し、サンプル評価をしてもらったり、承認を出してもらったりすることもありますので、量産工程同様の材料、設備、工程フロー、製造条件で作製する必要があります。
これらのサンプルを出荷するまでに最適な製造条件出しをおこない、評価結果をまとめてレビューを開催する必要があります。
評価は製造条件の上下限テストなどを実施して、製造条件の管理幅がどのようなレベルかも把握しておく必要があります。
4.量産移管
製品を作るうえで、設備を導入して条件だしをおこない、サンプルを作製し工程評価ができるところまで来たら量産を工場側に任せることとなります。
そのための最終評価として工場・製造が主体となって、製造技術エンジニアが選定した材料や設備を用いて、3ロット~10ロットといったある程まとまった数量を量産時とまったく同様の環境と方法で流動させます。
これを初期流動評価またはMP(マスプロ)などといいます。
初期流動の評価としては、これまでのサンプル評価とは異なり製品の諸特性を細かく見ることは重要視せずに、下記のような工程情報を集めます。
- 工程歩留まりが何%か?
- 設備の稼働率は何パーセントか?
- 設備のタクト・回転数はどのくらいか?
- MTBF(平均故障間時間)
- MTTR (平均復旧時間)
- アラーム停止の内容
上記のような情報やデータを工場・製造メンバーが主体で収集し、レビューをおこない、基準をあらかたクリアしていると合意できれば量産移管完了となります。
5.品質改善と歩留まりアップ
移管が完了して、製品の生産を開始した直後は、品質が安定せず歩留まりも良かったり悪かったりと、波が激しくなることが多々あります。
そこで品質アップの改善をやったり、歩留まり向上の改善を行うこととなります。これは製造技術エンジニアの大きな役割の一つです。
工程の改善を行うには、まず不良品を一つ一つじっくりと観察することから始めます。
そして不良品のどの部分がどんな症状なのかを突き止めます。
その次にその症状の原因がどこにあるのかを考えて究明します。
原因は一つに絞らず4つの側面から考えるのが基本となります。
- Man(人的要因)
- Machine(設備要因)
- Material(材料要因)
- Method(方法要因)
下記の4つの側面はすべて頭文字がMであることから4M(ヨンエム)と呼ばれています。
不良品を4Mそれぞれの立場から、入念に観察・分析をおこなって不良原因を究明し、それぞれ4Mに応じた対策をおこないます。
6.変動費、固定費コスト削減
製品の量産が始まったらあらゆる無駄をそぎ落としていく必要があります。
その中でも変動費・固定費は常にコストダウンできることはないか考え続けていくべき費用です。
変動費の中で製造技術エンジニアがコストダウンのターゲットとすべきはズバリ『材料費』です。
材料費を安く抑える方法は常に考え続けなければなりません。
材料費のコストダウンには次のような方法が考えられます。
- 使用料の低減(金型のランナ等不要部分の低減など)
- 購入メーカーの変更、相見積もり
- 代替材料の検討(ビス止めを樹脂圧着止めにするなど)
- 低コスト工法の検討(スクリーン印刷をディスペンサー塗布にするなど)
- 廃棄基準の見直し(樹脂塗布装置のシリンジ内使用限界ラインの適正化)
このほか外注費用や燃料費なども製造技術エンジニアがやるべきコストダウンのネタとなります。
ここに挙げたのはほんの一例で変動費に関してはまだまだ材料コストダウンのアプローチ方法があると思います。
つぎに固定費も同様にコストダウンの必要があります。
固定費は多岐にわたる費用ですが、製造技術エンジニアがコストダウンの対象とするのは主に下記の費用ではないでしょうか?
- 消耗品費
- 保全部品費
- エネルギー費
- 人件費・労務費
1.~3.に関しては材料費のコストダウンと同じアプローチ方法で進めていけばおおと思います。
しかし人件費・労務費の削減は下記のようないろいろな視点から攻めていくことが必要となると思います。
- 作業者の多能工化による人員削減
- 設備のレイアウト変更により作業者導線の最適化
- 設備の自動化推進
- 作業分析によりムダ作業廃止
- 外観検査機の導入
- ・・・・・・・・・
- ・・・・・・・・・
7.海外工場立ち上げ
企業が海外工場を立ち上げる理由はいくつかあります。
- 国内市場の縮小による海外市場の開拓
- 輸送コスト・人件費の削減
- 災害に備えるBCP
- 取引先企業への追従
- 企業価値・ブランドイメージの向上
等々立ち上げの理由はどうあれ、海外工場の立ち上げにおいても、製造技術エンジニアの次に示すような仕事がたくさんあります。
- 事業・人員構想
- 人員教育と配置
- 官公庁への各種申請
- 立ち上げスケジュールの策定
- 生産施設・生産設備の構想・設計
- ライン・設備レイアウト
- 見積もり
- 工事監理
- 施設・設備の稼働
まだまだ海外で工場を立ち上げるにはいろいろなハードルがあるのですが、製造技術エンジニアが関与する場面は決して少なくはないでしょう。
国や文化によって『どうしたらいいんだ??』と暗中模索の事態になることも多々あるでしょう。
世界中どこでも一つ一つこなしていく粘り強さと、アイデアが製造技術エンジニアには求められるのです。
8.クレーム処理
通常、客先でクレームが発生した際に最前線に立つのは営業部門であったり、QC(品質管理)部門であったりします。
量産移管されてないサンプル段階でのクレームの場合は、開発部門や設計部門が対応することもあります。
製造技術エンジニアがクレーム処理の最前線に立つことはあまり多くはありませんが、全くないわけではありません。
クレームが設備起因のものであったり、工法起因であったりする場合にはユーザーが直接工場監査に来たりすることに発展していくこともあります。
そのような場合には製造技術エンジニアが矢面にたって、原因や対策の内容を製造技術エンジニアが説明することがあります。
9.特許出願
開発や設計のエンジニアと同じく、製造技術エンジニアも新しい工法やノウハウを考えついた時には、特許を取得することを考えましょう。
特許を取得するとは、アイデアをわかりやすくまとめ、とごに新規性があり、どんなことを特許にするかを弁理士の先生に簡潔に伝えなければなりません。
自分で明細を書いて、出願することにチャレンジすることもできますが、かなり難しいと思います。
請求項の範囲であるとか、特許独特の言い回しであるとか明細を書くだけでもハードルはかなり高いと思います。
仮にうまく出願に漕ぎ着けたとしても、審査後に拒絶の通知があった場合、意見書と補正書を提出をしたり審査官にかけ合う必要があります。
ですので一般の会社員の場合にはアイデアのみを弁理士の先生に伝えて、明細の作成から出願、そして拒絶理由への対処など弁理士を通してのものとなります。
特許の大きな目的は新規性のある技術の保護し、将来自社で実施する権利を確保する点にあります。
製造技術の特許出願は工法や設備の工夫がベースにあることが多いので、工法や設備の工夫として特許出願として出願しても製品にならないことがあります。
製造技術エンジニアが特許出願する際には、新規性のある技術がどのように製品に反映されており、製品自体に特許となりうる新規性があると表現するよう注意が必要です。
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